モノの空間

 5月最後の特別講義の講師は黒川雅之さん。自分はタバコを吸ったりはしないので実物を持っていたりはしないが、GOMシリーズの灰皿などは有名だし欲しくなってしまうと思う。デザインを学んでいたりしていなくても非常に知名度の高い方なので、自分がする紹介はほどほどにさせていただいて、講義の内容を振り返っていきたいと思う。

 

 講義内の出だしから非常にインパクトのある内容のお話があった。それはモノと空間についてだった。

 

 “身の周りには非常にたくさんのモノが溢れている。しかし、このモノたちのほとんどは仕事をしていない状態にある。例えば、このペットボトルも今は飲まれていないのだから仕事をしていない”

 

 液体をその場に保持する仕事をしてるのでは…、なんて言うひねくれた考えは置いておいて、確かに人に対して何か仕事をしているとは言えない。

 ペットボトルが自分の元に届く、と言うか購入してから中身を飲みきって捨てるまでの時間の中で、人が触れている時間というのは非常に小さい。この考えというか、意識は忘れてしまってはいけなものだろう。

 

 

 

 

 

また、上記の内容に関連したことで、自分の頭に残り続けてるものがある。

 

 “モノは使われている状態を考えてデザインされがちだが、使われていない時間の方が多いのだから使われていない状態で置かれている時にどのような空間をそのモノが生み出せるかを考えることが大事なのでは”

 

 この言葉は、大げさに聞こえるかもしれないが、頭を叩かれたような衝撃を感じた。普段、人間工学という、特に使用する時のことを考える分野を中心に学んでいる自分からすると、頭から抜け落ちてしまっていた部分だった。もちろん、人間工学は使う際のことを考えないといけないのだから使う際のことを考えなければならない。だけれども、デザインをするのであれば使われていない際のことも考えなければならない。

 

 加えて、モノの発する空間についての話があった。そのことも非常に響いた。普段ほとんど意識していなかった考え方だったこともあり、モノをデザインする時には必要な考えだと感じたし、この考え方は普段から意識して周りのモノを見ることが必要だと感じた。

エスノグラフィー

 5月22日(月)、特別講義の講師は伊賀聡一郎さん。以前はRICOHの研究所に努めていて、現在はパロアルト研究所(parc:PARC, a Xerox company)の日本支部の代表をされている。伊賀さんはRICOHで企画段階から製品を出すまで全てに関わっている中で、新しいモノを生みだすためにエスノグラフィー”をビジネスに応用していたと聞いた。

 このエスノグラフィー”というものは元々は文化人類学社会学の用語で、集団や社会の行動などを調査し、記録することを指す。“ethnography”という単語は“ethno”という“民族”を意味する単語と、“graphy”という“記述”を意味する単語が合わさった言葉であり、デザインやマーケティングを行ううえで欠かせない手法となっている。

 エスノグラフィー”は写真や文字、イラストなどを用いてその場やシーンの状況等をデータとして残し、他人に伝わるようになっていないといけない。また、対象の人物がどう感じてどう考えているのかなどをその人物の視点で理解しないといけないが、自分というバイアス(偏見)がどうしてもかかってしまったり、自分との考え方の違いによってどうしても理解できないことなど、非常に難しい部分がある。

 

 

 

 

 エスノグラフィー”は今後の社会というか、将来を考えていくうえでは、やはり欠かせないものだと感じた。技術が進歩していくということは、ライフスタイルや仕事環境など身の回りが大きく変化していくことになる。そうなると、今までは十分であった製品やサービスが時代に合わなくなり、必要な価値を生み出せなくなってしまうことが起きてくると思われる。

 そのような細かな変化に対応して、ニーズに応じた製品やサービスを提供していくためにエスノグラフィー”を用いて調査することが必要なのではないかと感じた。

 

 人間工学を中心に学んでいて、ユニバーサルデザインバリアフリーデザインなどを多く注視する自分としては、このエスノグラフィー”を積極的に取り入れていきたいと感じた。それは、高齢者や障がい者をメインユーザーとする製品などを考えるうえで、どうしても自分の頭の中だけではその人たちが問題と感じている部分などを明確にできなかったり、間違った見解に至ってしまうことがあり得る。そのようなことをできる限る減らし、本当に必要な要素を抽出するためにもエスノグラフィー”は有効だと感じた。

眼憶力

 5月8日の特別講義「みらいのデザイン」では、玉井恵里子さんに講義を行っていただいた。玉井さんはインテリアデザイナーであり、「タピエ」(tapie - タピエ インテリアプランニング)というインテリアのプランニング会社を経営していらっしゃる他に、タピエスタイルという様々な作家さんのハンドメイド雑貨を取り扱うお店も経営していらっしゃる方である。

 

 その玉井さんが大切にしている考え方というか、意識として、

“眼憶力”

というものがある。これはただ単に脳に記憶するのではなく、自身の目で見て様々なものを憶える、というものらしい。

 広告やCMなどに用いられる小物やインテリアを4万点以上保有し、それらを用いてプランニングなどを行われていたり、先にもあげた「タピエスタイル」というハンドメイド商品の雑貨屋を経営していらっしゃる玉井さんは、きちんと自分の目で見て憶えておいて、仕事の依頼にストックしてあった知識というか情報を応用しているそうだ。

 

 講義の中で“目憶力”をアップするためのいくつかのポイントを教えていただいた。高級なもの、リーズナブルなものそれぞれの良さを知ることや、「気づく」力を鍛えるために普段の通り道から一本外れてみたり。

 これらのようなことを普段から意識することで自分の「引き出し」を多くすることが大切である、と学んだ。

 

 

 

 玉井さんの“目憶力”という考えは、ここ数ヶ月の間に自分の中に出てきた思いと似ているような気がしている。いわゆる春休みの期間に色々と出かける用事があり、普段は自分からは出向かないような場所にまで行ったのだが、学部での4年間や多少なりとも行った就職活動の経験なども影響してか、自分の目で実際に見ることでまた違った印象をうこるということがはっきりと理解できた気がした。

 “目憶力”をアップするためのポイントの中で、“現場主義”というポイントは自分も特に意識して実践していきたいと思う部分だった。それは、「実際に見て、触って、五感をフル活用する」ということがいかに自分に与える影響が大きいかわかったからでもあるし、例え行った場所や触れたものが自分と合わなかったとしても、その「合わなかった」という経験や知識が自分を成長させてくれると思ったからである。

 インターネットを用いれば実際の場所に出向かなくてもほとんどのことが調べることができる時代に、そこに出向き実際に感じたことをまた別の何かに還元・応用していけたらいいと思う。

1を0にする

 5月1日(月)の特別講義「みらいのデザイン」の特別講師は西村拓紀デザイン株式会社(西村拓紀デザイン株式会社)の西村拓紀さんだった。

 西村さんはパナソニックで8年間ほどデザイナーをされていて、そこから個人の事務所を立ち上げたそうだ。元はプロダクト系のデザイナーなのだそうだが、個人での仕事ではデザインのすべてに関わるために、ロゴデザインであったり様々な分野のデザインを行なっていると言う。実際に西村さんのHPを見てみるとわかるのだが、プロダクト系のデザイン以外にも多くのデザインをされている。

 そのような西村さんの講義は、自分の思ってもいないフレーズから開始した。

“1を0にする”

 「0から1をつくる」とか、「1を10にする」といったようなフレーズはよく耳にする。しかし、“1を0にする”ということは一体どう言うことなのか…。

 それはクライアントからの要望を“1”とした時に、その要望を分解してより本質的な点を見つけその点をスタート位置、すなわち“0”としてデザインを進めていくということらしい。どうしても表面的なものになってしまいがちな要望の本質的な部分を見つけ出すことで新たなコンセプトが出来上がる。

 講義内で紹介していただいたデザインすべてにこの“1を0にする”というコンセプトの手法が用いられているようだった。

 

 

 

 

 この西村さんの講義を聞いて、以前他のデザイナーさんがおっしゃっていたことを思い出した。それは、

“なぜ?を繰り返す”

“その概念の上位の概念にひたすらのぼっていく”

ということだ。どちらも西村さんの“1を0にする”という考え方と同じことを意味していると感じた。例えば調理器具をデザインするとして、

 

なぜ調理器具を使って料理するのか

使って料理すると楽しいから

なぜ楽しいのか

 

というように、なぜ?を繰り返すことでデザインするべきもの、考えなければいけないものが明確になるということを教えていただいた。

前々回の講義では「一歩引いて考える」ことの重要性を学んだのだが、今回の講義でのこの考え方は逆にモノゴトの一点、中心に深く注意を向けることの大切さを学んだのだと思う。これはどちらの考えが正しいという話ではなく、両方の考え方を持っておくことが大切なのだと考える。

手を動かす

 4月24日、特別講義「みらいのデザイン」では(株)IDEE(IDÉE|イデー)のデザインマネージャーをされている深田新さんの講義だった。

 深田さんの製品を含めてIDEEの製品を紹介していただきながら、重要な意識や考え方を教えていただいた。深田さんが関わった製品の中には、一般的に捨ててしまうような木材を再利用して作られたモノが多くあった。

 例えばイノシシなどによる被害、獣害により枯れてしまったり枯れてしまうような木を材に用いてスツールなどに加工するもの。また、丸太を整形する際に出る端の部分を弧を描いている面を内側に向け貼り合わせていくことで1枚の板に加工し、机の天板などに用いるというものも紹介いただいた。

 これらのような、

“社会的な問題に光を当てる”

ことは新しい価値を生み出す上で、また無駄を減らすために必要な考え方だと感じた。

 

 

 

 

 深田さんのお話の中に、

“素材と向き合い手を動かして考える”

“道具はどこまでいっても手の延長だということを忘れてはいけない”

というものが出てきた。深田さんは特にインテリア製品のデザインに関わっていらっしゃるということもあるのだろうが、やはり「自分の手を動かす」ことの重要性を再確認させていただいたと思う。

 もちろん新しいものを生み出すためにはマーケティングや、市場調査などももちろん大切な部分ではあるが、実際に手を動かすことでしか発見できなかったりするものがやっぱりあると思う。

 手を動かすということは思考する助けにもなる。実際に頭で考えたことをアウトプットすることによって思考の確認にもなり、また逆にアウトプットしたものが思っていたことと違っていたとしてもそこから新たに得られるものがあったりする。この偶然とも言えるような発見も、今までのアイデアや思考に新しい要素やひらめきをもたらしてくれる。これは手を実際に動かすことでしか得られない。

 このことはデザインに関わる場合はもちろん、それ以外の場合でも意識して行なっていきたい。

自分と、世の中との差

 4月17日(月)、この日の大学院特別講義「みらいのデザイン」では、(株)QUANTUM(QUANTUM Inc.)の原田明さんにお越しいただいての講義だった。

 講義の内容は、実際の事例を紹介していただきながら、それぞれのコンセプトやアイデアのスタート地点からどのようにして最終的なデザインに落とし込んで行ったかなどを解説していただいた。

  特に新しい商品を生み出すとか、新しいブランドを立ち上げる際の「ブランドステートメント」が重要であるというお話があった。

“方向性を言葉で示すことで、より明確になる”

プロジェクトを進めていく上で根幹となる方向性があやふやであったり、関わっている人全員の理解がある状態でないと、途中で綻びが生じたり中途半端なものになってしまう。そのため、ブランドステートメントを言葉で示すことが必要になる。

 

 またデザイナーは、

“こういう社会、こういう世の中になったらいいのに”

という自分と世界との差を常に持っていることが求められるというお話もあった。その差が新しいアイデアになるという。

 

 

 

 

 

 例えば自分が「新しいものをデザインする」となった際に、ついつい「今の世の中にないモノを」と考えてしまうと思う。その考え方が全て間違っているわけではないと思うが、講義でのお話を聞いた後に考えてみると、ストーリー性がないというか、とても脆いモノになってしまう気がする。「世の中にない」という部分につられて、逆に視野が狭くなってしまうようにも思う。

原田さんのお話の中に出てきた、

 “一歩引いて見る。大きな視点で世界を見る”

 ということは、いつ何時どのような場面であっても忘れてはならないことだと感じた。自分と世の中との差をしっかりと把握する上でも、自分からの一人称視点だけで物事を考えてしまっては上手くいかないのだと思う。自分という一人称視点があった上で、そこから三人称視点になるよう一歩引いて考えることが大切だと感じた。